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素イデアルと域

素イデアル

定義 $R$を環とする。真イデアル$P\subsetneq R$は以下の条件を満たすとする。

  • $x, y\in R$について、$xy\in P$なら$x\in P$または$y\in P$が成り立つ。

このとき$P$を 素イデアル (prime ideal)と呼び、環$R$の素イデアル全体を$\mathrm{Spec}R$と表す。

定理 (素イデアル対応定理)$I\subset R$をイデアルとする。このとき$I$を含む$R$の素イデアル全体と$R/I$の素イデアルは一対一に対応する。

(証明)イデアル対応定理より、素イデアル$J\subset R, K\subset R/I$について

$$ \begin{aligned} \Phi(J)&=\lbrace a+I : a\in J \rbrace \subset R/I , \\ \Psi(K)&=\lbrace a\in R : a+I\in K \rbrace \subset R \end{aligned} $$

が素イデアルとなることを示せば良い。

$(a+I)(b+I)=ab+I \in\Phi(J)$とする。ある$x\in J$が存在して$ab+I=x+I$だから、$ab-x\in I\subset J$である。ここで$x\in J$より$J$がイデアルであることから$ab=(ab-x)+x\in J$を得る。ところで$J$は素イデアルだから$a\in J$または$b\in J$である。故に$a+I\in\Phi(J)$または$b+I\in\Phi(J)$を得る。

$ab\in\Psi(K)$とする。定義より$(a+I)(b+I)=ab+I\in K$である。$K$は素イデアルだから$a+I\in K$または$b+I\in K$が成り立ち、$a\in\Psi(K)$または$b\in\Psi(K)$を得る。$\square$

定義 ゼロでない環$R$は以下を満たすとする。

  • $a, b\in R$について$ab=0$なら$a=0$または$b=0$が成り立つ。

このとき$R$を (domain)と呼ぶ。特に単位的可換環が域のとき 整域 (integral domain)と呼ぶ。

$a, b\neq 0$であって$ab=0$のとき、$a$あるいは$b$を零因子と呼ぶ。

命題 $I\subset R$をイデアルとする。TFAE

  1. $I$は素イデアルである。
  2. $R/I$は域である。

(証明)$I$を素イデアルとする。$\overline{a}\cdot\overline{b}=0$とすると、$ab\in I$より$a\in I$または$b\in I$が成り立つ。故に$\overline{a}=0$または$\overline{b}=0$である。

逆に$R/I$は整とする。$ab\in I$とすると$\overline{a}\cdot\overline{b}=\overline{ab}=0$である。故に$\overline{a}=0$または$\overline{b}=0$が成り立つ。故に$a\in I$または$b\in I$である。$\square$

定義 $R$を環とする。$ab=ac, a\neq 0$なら$b=c$が成り立つとき、$R$は 消去可能 (eliminable)であるという。

命題 $R$をゼロでない環とする。TFAE

  1. $R$は域である。
  2. $R$は消去可能である。

(証明)$R$は整とする。$ab=ac, a\neq 0$とすると$a(b-c)=0$より$b-c=0$となる。よって消去可能である。

逆に$R$は消去可能とする。$ab=0$とする。$a\neq 0$なら$ab=0=a\cdot 0$より消去可能性から$b=0$を得る。$\square$

域(domain)、整(integral)という言葉は他でも使う。不便だが既に広まった用法なので仕方ない。

  • 有理整数環$\mathbb{Z}$は整域である。
  • $\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}$は成分毎の演算で環となるが、例えば$(1, 0)(0, 1)=(0, 0)$となるため整域ではない。
  • $p\in\mathbb{Z}$が素数であることと$p\mathbb{Z}$が素イデアルとなることは同値になる。例えば$6\mathbb{Z}$は素イデアルでない。実際$2\cdot 3=6\in 6\mathbb{Z}$だが$2, 3\notin 6\mathbb{Z}$である。あるいは剰余環の消去性を見ても良い。例えば$\overline{2}\cdot\overline{4}=\overline{2}\cdot\overline{1}$だが、$\overline{4}\neq\overline{1}$なので$\overline{2}$を消去できない。