測度空間$( S, \mathscr{A}, \mu_{S} )$及び$( T, \mathscr{B}, \mu_{T} )$に対して、積可測空間$( S\times T, \mathscr{A}\otimes\mathscr{B} )$上の測度を構成しよう。積$\sigma$加法族は
と定義されるが、基となる集合族$\mathscr{A}\times T\cup S\times\mathscr{B}$はやや扱い難い。
命題
が成り立つ。特に$( S, \mathscr{A} ), ( T, \mathscr{B} )$が可測空間のとき
が成り立つ。
(証明)$S\in\mathscr{G}, T\in\mathscr{H}$より$\mathscr{G}\times T\cup S\times\mathscr{H} \subset \mathscr{G}\times\mathscr{H}$となるため左辺は右辺を含む。$G\times H\in\mathscr{G}\times\mathscr{H}$について
より逆も成り立つ。$\square$
命題
(証明)まず$\emptyset=\emptyset\times\emptyset\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$である。次に$A\times B, C\times D\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$に対し、
である。また
より、$\mathscr{A}\times\mathscr{B}$の元の非交叉有限和で書ける。従って$\mathscr{A}\times\mathscr{B}$は半加法族である。$\square$
補題
で定める。このとき$\mu$は半加法族$\mathscr{A}\times\mathscr{B}$上の前測度となる。
(証明)正値であることは明らかなので、有限加法的であることを示す。$A_{1}\times B_{1}, \dotsc, A_{n}\times B_{n}\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$に対し、$\bigsqcup_{i=1}^{n}A_{i}\times B_{i}=A\times B\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$であるとする。このとき
が成り立つことを$n$に関する帰納法で示そう。
だから、
が成り立つ。帰納法の仮定より
が成り立つ。同様にして
も成り立つ。ここで$i=1, \dotsc, k$について$\mu_{S}( A_{i}\cap A_{k+1} )\mu_{T}( B_{i}\cap B_{k+1} )\gt 0$と仮定すると、
となり矛盾する。故に$\mu_{S}( A_{i}\cap A_{k+1} )\mu_{T}( B_{i}\cap B_{k+1} )=0$であり、
を得る。$\square$
定理 上記補題の$\mu$は弱可算劣加法的である。
(証明)集合$X$上の可算被覆$\mathscr{C}=\lbrace C_{1}, C_{2}, \dotsc \rbrace\subset 2^{X}$を考える。まず写像$f\colon X\rightarrow 2^{\mathbb{N}}$を以下で定める。
-
$x\in X$ 及び$n\in\mathbb{N}$について、$x\in C_{n}$なら$f(x){n}=1$、$x\notin C{n}$なら$f(x)_{n}=0$とする。
このとき$p\in 2^{\mathbb{N}}$について
であり、従って$f^{-1}( 0 )=\emptyset$及び$X=\bigsqcup_{p\in 2^{\mathbb{N}}}f^{-1}(p)$が成り立つ。
さて互いに素な$\lbrace A_{n}\times B_{n} \rbrace\subset\mathscr{A}\times\mathscr{B}$について、$\bigsqcup_{n\in\mathbb{N}}A_{n}\times B_{n}=A\times B\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$であるとする。$\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_{n}=A, \bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_{n}=B$より、写像$f\colon A\rightarrow 2^{\mathbb{N}}, g\colon B\rightarrow 2^{\mathbb{N}}$を上記のように定めることができる。更に$\mathscr{A}, \mathscr{B}$は$\sigma$加法族だから、$p, q\in 2^{\mathbb{N}}$について$f^{-1}(p)\in\mathscr{A}, g^{-1}(q)\in\mathscr{B}$が成り立つ。$\mu_{S}, \mu_{T}$は測度だから可算加法的なので
を得る。
ところで$( x, y )\in A\times B$について、ある$n$が存在して$( x, y )\in A_{n}\times B_{n}$であり、従って$f( x ){n}=g( y ){n}=1$である。故に$p, q\in 2^{\mathbb{N}}$が任意の$n$について$p_{n}=q_{n}=1$でないなら、$f^{-1}(p)\times g^{-1}(q)=\emptyset$であり、特に$\mu$は前測度なので$\mu( f^{-1}(p)\times g^{-1}(q) )=0$である。以上より
を得る。ここで$A=\bigsqcup_{p\in 2^{\mathbb{N}}}f^{-1}(p)$より、$A_{n}=\bigsqcup_{p}f^{-1}(p)\cap A_{n}=\bigsqcup_{p_{n}=1}f^{-1}(p)$である。よって
だから、結局
を得る。つまり$\mu$は弱可算劣加法的である。$\square$
従って拡張定理より$\mu$の拡張となる$\mathscr{A}\otimes\mathscr{B}=\sigma\lbrack \mathscr{A}\times\mathscr{B} \rbrack$上の測度が存在する。これをもって測度空間$( S, \mathscr{A}, \mu_{S} ), ( T, \mathscr{B}, \mu_{T} )$の積としたいのだが、実は拡張は一意でない。
定義
-
$S\in\mathscr{D}$ である。 -
$A, B\in\mathscr{D}, A\subset B$ なら$B\setminus A\in\mathscr{D}$である。 -
$\lbrace D_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset\mathscr{D}$ が単調増大列($D_{1}\subset D_{2}\subset\dotsm$)なら$\bigcup_{n\in\mathbb{N}}D_{n}\in\mathscr{D}$である。
このとき$\mathscr{D}$を$S$上の ディンキン族 と呼ぶ。
$\sigma$ 加法族はディンキン族である。またディンキン族$\mathscr{D}$について$\emptyset=S\setminus S\in\mathscr{D}$であり、$A\in\mathscr{D}$なら$S\setminus A\in\mathscr{D}$も明らかだが、可算合併に関しては一般に成り立たない。ただし$\lbrace A_{n} \rbrace\subset\mathscr{D}$について単調増大列$B_{n}:=\bigcup_{i=1}^{n}A_{i}$を作ることができるので、$B_{n}\in\mathscr{D}$が常に成り立つのであれば$\sigma$加法族であることが分かる。
ディンキン族も任意の交叉でディンキン族となる。従って生成を考えることができる。
定義
命題
と定めると$\mathscr{D}_{A}$は$A$を含むディンキン族となる。
(証明)$A\cap S= A\in D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$より$S\in\mathscr{D}_{A}$である。
単調増大列$\lbrace B_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$を取る。$A\cap\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_{n}=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}( A\cap B_{n} )$だが、これは単調増大列$\lbrace A\cap B_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$の極限で表せる。故に$\bigcup_{n\in\mathbb{N}}B_{n}\in\mathscr{D}_{A}$も従う。
補題 (ディンキンの補題)$\mathscr{G}\subset 2^{S}$は有限交叉で閉じるとする。すなわち$G_{1}, \dotsc, G_{n}\in\mathscr{G}$について、
を満たすとする。このとき$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack=\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$が成り立つ。
(証明)$\sigma$加法族はディンキン族なので最小性より$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack\subset\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$である。
逆は$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$が$\sigma$加法族であることを示せば良い。そこで
と定める。このとき$\mathscr{G}\subset\mathscr{D}$が成り立つ。実際$A\in\mathscr{G}$とすると、任意の$G\in\mathscr{G}$について仮定より$A\cap G\in\mathscr{G}$である。$\mathscr{G}\subset D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$であるから$\mathscr{G}\subset\mathscr{D}{A}$である。ここで$\mathscr{D}{A}$はディンキン族だから最小性より$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack\subset\mathscr{D}{A}$を得る。逆も定義より明らかなので$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack=\mathscr{D}{A}$が成り立つ。以上より$A\in \mathscr{D}$を得る。
を得る。故に$G\in \mathscr{D}_{B\setminus A}$である。
同様に単調増大列$\lbrace A_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset\mathscr{D}$を取れば、$G\in\mathscr{G}$に対し$( \bigcup_{n\in\mathbb{N}} )\cap G=\bigcup_{n\in\mathbb{N}}( G\cap A_{n} )$が成り立つ。これは単調増大列$\lbrace G\cap A_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$の極限だから$D\lbrack \mathscr{G} \rbrack = \mathscr{D}{\bigcup{n\in\mathbb{N}}}$を得る。
以上より$\mathscr{D}$は$\mathscr{G}$を含む$S$上のディンキン族であり、特に$\mathscr{D}=D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$が成り立つ。
定義 集合函数$\mu\colon\mathscr{G}\rightarrow\lbrack 0, \infty \rbrack$は単調とする。以下を定める。
-
$S\in\mathscr{G}$ かつ$\mu( G )\lt\infty$のとき$\mu$は有限(finite)という。 - ある$\lbrace G_{n} \rbrace\subset\mathscr{G}$が存在して$G_{n}\nearrow S, \mu( G_{n} )\lt\infty$を満たすとき$\mu$は$\sigma$-有限という。
命題
はディンキン族である。
(証明)定義より$S\in\mathscr{D}$である。$A, B\in\mathscr{D}, A\subset B$について$\mu_{j}$は有限な測度だから$\mu_{j}( B\setminus A )=\mu_{j}( B )-\mu_{j}( A )$である。故に$B\setminus A\in\mathscr{D}$を得る。また単調増大列$\lbrace A_{n} \rbrace\subset\mathscr{D}$に対し、$A_{0}:=\emptyset, B_{n}:=A_{n}\setminus A_{n-1}$と定めれば$\bigcup A_{n}=\bigsqcup B_{n}$より
が成り立つ。$A_{n}\setminus A_{n-1}\in\mathscr{D}$より$\bigcup_{n\in\mathbb{N}}A_{n}\in\mathscr{D}$を得る。$\square$
定理
(証明)単調増大な$\lbrace G_{n} \rbrace\subset\mathscr{G}$を、$G_{n}\nearrow S, \mu_{0}( G_{n} )\lt\infty$を満たすように取る。$A\in\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$に対して$A\cap G_{n}\nearrow A$であるから、増大列連続性より$\mu_{j}( A )=\lim_{n\in\mathbb{N}}\mu_{j}( A\cap G_{n} )$が成り立つ。
ところで$A\in\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$に対して$\mu_{j, n}( A ):=\mu_{j}( A\cap G_{n} )$と定めると、$\mu_{j, n}$は$\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$上の有限な測度となる。ここで
$$ \mathscr{D}{n}:=\lbrace A\in\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack : \mu{1, n}( A )=\mu_{2, n}( A ) \rbrace $$
と置くと、先の命題よりディンキン族となる。ディンキンの補題より$\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack=D\lbrack \mathscr{G} \rbrack$であるから、最小性より$\mathscr{D}{n}=\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$となる。よって任意の$A\in\sigma\lbrack \mathscr{G} \rbrack$に対して$\mu{1}( A\cap G_{n} )=\mu_{2}( A\cap G_{n} )$を得る。以上より$\mu_{1}=\mu_{2}$が従う。$\square$
系
(証明)$\lbrace A_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset\mathscr{A}, \lbrace B_{n} \rbrace_{n\in\mathbb{N}}\subset\mathscr{B}$として
を満たすように取れる。ここで$C_{n}:=A_{n}\times B_{n}\in\mathscr{A}\times\mathscr{B}$とすると
を満たす。即ち$\mu$は$\sigma$-有限であるため、定理から拡張は一意的であることが分かる。$\square$
定義 系において$\mu$の拡張となる可測空間$( S\times T, \mathscr{A}\otimes\mathscr{B} )$上の測度は一意的に存在する。これを$\mu_{S}\otimes\mu_{T}$と記し、$\mu_{S}$と$\mu_{T}$の積測度と呼ぶ。このとき$( S\times T, \mathscr{A}\otimes\mathscr{B}, \mu_{S}\otimes\mu_{T} )$を積測度空間と呼ぶ。
TODO: 圏$\mathbf{Meas}$における積対象